百花繚乱、生命の息吹きが漲り、夢と希望に溢れたこの季節に、皆さんを光塩女子学院にお迎えできることを大変嬉しく存じます。今年度は、新型コロナ感染症パンデミックの影響で不透明・不測の事態の中での始まりとなってしまい、例年通りの入学式を挙行できず、残念至極です。
今日から、新しい生活に臨まれる中等科一年生・高等科一年生の皆さん、そして保護者の皆様、御入学おめでとうございます。心よりお祝いとお慶びを申し上げます。今日からスタートする光塩女子学院での生活が、日々、新たな発見と気付き、将来へと繋がる歩みと成長の時となりますようお祈り申し上げます。
2020年4月から、皆さんが光塩女子学院で新たな学びを始めることは、決して偶然ではなく、皆さんが光塩を選ばれたと同時に、神様が皆さんを光塩女子学院に招き、皆さんと私どもを出逢わせてくださった必然なのだと、私は確信しています。光塩にいらしてくださり、本当にどうも有難うございます。
ある年の高等科卒業式の日に、光塩女子学院への入学について「神様が、一番良い道を備えてくださったと感謝しています」と仰ったお母様がいらっしゃいました。本日入学された光塩女子学院が、皆さん御自身にとって一番の学校!と実感され、そしてお一人お一人が、これからの学院生活を最良の道「ライトプレイス」であったと感じて、卒業の日を迎えてほしい、と願っております。
光塩女子学院の校名は、聖書の言葉に由来します。聖書の中には、イエスは、ガリラヤ湖周辺の丘の上で、人々に向かって「あなたがたは地の塩である あなたがたは世の光である」と呼び掛けられたと記されています。イエスは、一人一人が「地の塩 世の光」だと仰います。人間一人一人は、そのままで明るく、暖かく、周りを照らす「光」であり、味をつけて防腐剤や浄めにもなる「塩」なのです。「光と塩」は、周りの人に喜びを与え、元気づけ、励まし、活力を与える、生きていく上でのエネルギッシュな生き方を示しています。光塩という校名は、一人一人が、大きな可能性を秘め、偉大な使命を神様から与えられているという、私たち人間のあるべき姿を遠大な展望のうちに示すメッセージを含んでいるのです。卒業生が残してくれた「『あなたは世の光 地の塩』という言葉に込められた尊い意味を、六年間かけて心に刻むことができた」という感慨をよりどころとして、「光と塩」のパワーを勇往邁進してください。
では、「光であり、塩である」私たちとは、どのような存在なのでしょうか。第五代校長で、校長職を23年間務められたシスター西川は、「あなたがたは、神様から創られたユニークなかけがえのない存在」と、在校生・保護者・卒業生に耳にタコができるほど、何度も語り続けられました。卒業生の私は、この言葉によって、在校中も、卒業後も、そして今に至るまで、五里霧中の渦中で、体調不良のどん底で、こんな私でも生きていて良いのだ、と鼓舞され、生き抜くことができました。
自分が「かけがえのない存在」であること、自分の才能や外見で左右されることのない「自分の存在の神秘」 を、光塩での学院生活の中でたくさん体験して自己肯定感を高めてください。存在そのもののかけがえのなさは、何が起ころうとも、誰が何と言おうとも揺らぐことはありません。
更に、「かけがえのない私」という存在が、この世に生きているのと同様に、目の前のお友達や御家族・先生方も、更に、まだ出逢っていない未来の友人たちも、「かけがえのない存在」であるという真理をいつも心に留めて、まずは、大切な存在としての自分に、そして目の前の方々にも、愛情を注いでください。
しかのみならず、人間は、命という観点からも、計り知れないかけがえのなさを持っている存在です。何故なら、人間の命は、奇跡の連続の上に成り立っているからです。遺伝子工学の第一人者でいらっしゃる筑波大学名誉教授の村上和雄先生は、「人間の持っている遺伝子情報は、一粒の米を六十億に分けたほどの極小スペースに、一頁1000文字で1000頁ある大百科辞典3200冊分が入っている。」また、宇宙物理学者で神奈川大学元学長の桜井邦明先生は、「太陽の中心核では、四つの水素が融合して一つのヘリウムを作るが、水素の質量の0.7パーセントがエネルギーに転換して放出され、それによって太陽が輝いている。この放出量が0.71パーセントだったら星の進化のスピードが早すぎて、大陽はすでにない。0.69パーセントだとスピードが遅くなり、ヘリウムが結合できず、百三十七億年たっても炭素が作られず、生命は生れていない。」と仰っています。(村上教授・桜井教授の御言葉は『致知』2015年12月号による。) 命は、まさに想像を絶するような偶然と奇跡の連続によって織り成されている、かけがえのない存在なのです。
今、世界は、混迷の度合を極めています。つい数ヵ月前まで、イギリスのEU離脱・移民・自国第一主義等、「分断」する、「分断」される世界状況の打開策を講じるために様々な議論がなされていましたが、今や、新型コロナ感染症パンデミックとの闘い一色となり、グローバル社会の連繋が試されています。
専門家が発信する正確な情報をキャッチして分析し、社会の構成員の一人として責任ある行動をとることが求められているのです。昨年来日された教皇フランシスコは、「すべてのいのちを守る」ことを第一義に私たちにメッセージをくださいました。
今流行している新型コロナウイルスは、感染しても無症状であったり、症状が軽かったりすることも多く、その場合でも他者に感染させる危険があるという特徴を持ちます。重症化しやすい高齢者や基礎疾患がある方に、無症状者や軽症者から感染が広がったら大変です。自分一人くらい、私たちのグループくらい平気だろう、という甘えと過信を払拭して、私たち一人一人が責任を持って、「すべてのいのちを守る」という気概を持ちましょう。今回、入学式の実施を断念した最も大きな判断の根拠は、「すべてのいのちを守る」という観点です。 この機会に、優しさという意味の思いやりに加え、認識的思いやり、即ち、自分の眼前からイマジネーションを広げて、想像力を駆使して思考・判断する習慣を大切にすることを心掛けてください。
自分の眼前からイマジネーションを広げるための着眼点として、今年度は、学校目標「光と塩」 サブテーマに ー ホスピタリティー ー を掲げ、更に「世界・環境」についての思考を深め、「自己・学び」と対峙するためのヒントとして「塩 SALT」に焦点を当てていきたいと考え、「SALT」のS・A・L・Tを頭文字に持つ言葉を提示します。
Sustainability(持続可能性 ー 環境問題) Ambition(大志 ー夢の実現)
Lux Veritatis(真理の光 ー学問探究) Tolerance(寛容 ー多様性)
具体的な展開に就いては、今後、学年進行の目標や学校ルーブリックと連動させて、お話していく予定です。
今こそ、人類の叡知を結集することが必要です。将来、御自分の専門分野で他者のために生きることを喜びとする人生を生きるために、光塩での日々の学びと体験をかけがえのないものとして、大切に過ごしてください。
最後になりましたが、保護者の皆様、小学校・中学校の義務教育の課程を終えて、一段と成長されたお嬢様の御姿を御覧になり、喜びも一入でいらっしゃることと存じます。
お嬢様方の成長にとって大切な時期を、光塩女子学院にお託しくださいましたこと、心より感謝申し上げます。お預かり致しましたからには、私ども、精一杯力を尽くす所存でございます。
学校教育は、お嬢様方、御家庭、学校とが三位一体になって、殊に、御家庭と学校との誠実な関わりと篤い信頼関係とによって構築されてゆくものです。保護者の皆様との忌憚のない対話、そして皆様からの御協力をお待ち申し上げております。
御一緒に、お嬢様を育む機会を戴いたことに感謝の思いでいっぱいです。保護者の皆様、遠くから近くからお嬢様をお見守りくださいませ。
本日は、誠におめでとうございます。