光塩生の皆さん、御入学・御進級おめでとうございます。
2020年春、新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響で、始業式を行えず、始業式でのメッセージをプリントとHPにてお届けすることに致しました。
三月の初旬からの一斉休校措置によって、授業の最終週・期末試験等が実施できず、学年末をきちんと締め括ることが叶わず、また、新学期も近々の学校再開のめどが立たない状況ですが、皆さんは、御自分や御家族、そして周囲の方々のいのちを守るために、賢明な行動を取っていらっしゃることと、私は確信しています。
前年度のまとめは万全ですか。そして、四月から光塩女子学院中等科に入学された新中一の皆さん、国語や算数の課題は順調に進んでいますか。まだやり残しがある方は、今のうちにがんばって仕上げましょう。ファイト!です。
今後、前年度の返却物・新年度の教科書・学年便り等を順次お送りし、学習に就いても、ICT等を駆使しての学習プランを、各学年・各教科担当から段階的に発信していきます。 お友達や先生と直接会って、学校生活の中で切磋琢磨しあえず残念至極ですが、今は、自分と向き合って、自己対峙しつつ主体的に学ぶ機会到来!と捉え、自学自習にチャレンジしてください。
私からも、課題を一つプレゼントします。
今、世界は、感染症のパンデミックで混迷を極めていますが、この状況に陥る前から、時代はシステムの変革期に突入していました。
百五十年前の明治維新、七十数年前の第二次世界大戦の終戦に次ぐ、揺らぎの時の到来です。
例えば、
・「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」をはじめとする今までと次元の違う科学技術の進歩
・オックスフォード大のオズボーン准教授らによる「雇用の未来 コンピューター化によって仕事は失われるのか」という問題提起(2030年問題)
・AI(人工知能)が人間を超えるのではないかという2045年のシンギュラリティの問題
等に象徴されるような、私たち人間の生き方の根本に関わる、空前の大転換(パラダイムチェンジ)の時が眼前に迫っています。或いは、私たちは既に、その渦中にいるといっても過言ではないかもしれません。
このような時代を生き抜くために、私たちは、AI(人工知能)が得意としないような、人間固有の価値や能力をより一層育んでゆく必要があります。
AIよりも人間が秀でている価値や能力には、どのようなものがあるでしょうか。今回、皆さんに、その価値や能力を具体的にイメージすることを課題として提示します。是非、学校再開の日までに考えておいてください。
ヒントとして、一例を挙げておきます。「ホスピタリティ」は、いかがでしょうか。
実は、今年度、「ホスピタリティ」を学校目標「光と塩」のサブテーマに掲げたいと思っています。
ホスピタリティというと、東京2020オリンピック招致の時に流行語にもなった「おもてなし」を思い浮かべる方が多いことでしょう。今回は、他者・自己を「歓待」する姿勢を涵養することをポイントに目指していきたいです。
具体的には、
(一)挨拶で「歓待」
・朝、眠くても、寝起きが悪くても、「おはようございます!」
・日中、校内ですれ違ったら、急いでいても「ごきげんよう!」
(二)授業で「歓待」
・授業中で、集中が切れたり、おしゃべりしそうになったら、自分に喝!
(三)掃除で「歓待」
・掃除後、気持ちよく使っていただけるように、場を清める。
といった一つ一つの行為に心を込めることで、「光と塩」の精神ー「人のために生きることを喜びとする」ーを学院生活の中で育んでいくことができたら……と願っています。
更に、今年度は、昨年度まで実施してきた学年進行の目標とも連動させ、昨年度末に「学校アンケート」で使用した「学校ルーブリック」も活用して「光と塩」の精神を深めていきます。
特に今年度は、「塩 SALT」に焦点を当てて、「世界・環境」について思考を深め、「自己と学び」に対峙するためのヒントとして、「SALT」のS・A・L・Tを頭文字に持つ次の言葉をキーワードにします。
Sustainability(持続可能性ー環境問題)
Ambition(大志ー夢の実現)
Lux Veritatis(真理の光ー学問探究)
Tolerance(寛容ー多様性)
英語だけでなくラテン語もあって、解説が長くなる危惧があり、すべての項目についての詳しい説明は、機会を改めますが、
今日は、
「Sustainability(持続可能性ー環境問題)」について、少しだけ言及したいと思います。
現在、世界で闘っている感染症も人類の持続可能性に関わる大問題ですが、文明の恩恵に浴することを優先して地球環境を顧みて来なかった人類は、その他にも温暖化・水不足・大気汚染・森林破壊等の様々な環境問題に直面しています。日常生活の営みの中では、遠い世界のことで、自分と繋がっていないように思ってしまいがちですが、世界で起きていることを自分のこととして捉え、私たち一人一人にできることを模索することが必要です。
例えば、昨今、マイクロプラスチックの問題が指摘されていますが、海鳥を専門とする博士レイバース氏の報告によると、ロードハウ島での調査で、死んだ一羽の鳥の胃から234片、雛鳥からも276片のプラスチックが見つかったとのことです。海鳥が餌のイカと間違えてプラスチックを食べてしまうことで起きた悲劇と推定されています。海には境界がありませんので、海鳥のお腹のプラスチックは、地球という「家」で暮らす私たち一人一人の責任に直結しているのです。
すぐに生活を一変させることは難しいですが、プラスチック製品の使用を減らす工夫に就いては、ストローの使用を控えたり、プラスチックの再利用に努めたりする等、今、この瞬間からの意識改革が可能です。
今を生きる私たちには、将来の地球を担う世代、そして地球上に生きる総ての生き物に対しても責任を負っているのだという自覚が不可欠なのです。
残る3つのキーワードについては、またの機会に……。
冒頭でも触れましたが、今、世界では、命を守るためにウイルスとの闘いが続いています。
昨年来日された教皇フランシスコが示してくださった、「すべてのいのちを守るため」という確固たる信念に基づいた言葉を希望の灯に、一人一人のいのちを大切にするために社会的責任を果たしていきましょう。
教皇フランシスコは、昨年の来日に際し、「青年との集いの講話」の中で、
「夢を見ない若者は悲惨です。夢を見るための時間も、神が入る余地もなく、ワクワクする余裕もない人は、そうして、豊かな人生が味わえなくなるのです。笑うこと、楽しむことを忘れた人たちがいます。すごいと思ったり、驚いたりする感性を失った人たちがいます。ゾンビのように心の鼓動が止まってしまった人たちです。なぜでしょうか。他者の人生を喜べないからです。聞いてください。あなたたちは幸せになります。ほかの人といのちを祝う力を保ち続けるならば、あなたたちは豊かになります。」(『すべてのいのちを守るため 教皇フランシスコ訪日講和集』カトリック中央協議会刊59ページ)
という示唆に富んだメッセージを発信されました。「ほかの人といのちを祝う力を保ち続けるならば、あなたたちは豊かになります」とは、何と力強く、友愛と希望に満ちた御言葉でしょう。
この不透明・混沌たる情勢の今だからこそ、自分自身、身近な周りの人々は勿論、これから出逢うであろう、或いは直接には出逢えないかもしれない「もう一人の友」のいのちを大切に守ることを心に留めて、日々の歩みを進めてください。
そして、一つ一つの課題に取り組むとき、学ぶことの目的に就いても思いを巡らせて、学習にダイナミックにチャレンジしましょう。
一学期の学びの始まりが、スムースでありますように!
皆さんと御家族の皆様の御健康をお祈り申し上げております。