About Koen
中等科・高等科校長 烏田 信二
2024年度 3 学期始業式
皆さん、あけましておめでとうございます。
皆さんお一人おひとりがご家族と共に、和やかで健やかなクリスマス、そして年末年始を過ごされたことと思います。
いよいよ今日から 3 学期が始まります。
2学期終業式の際にも触れましたが、今年度の目標「他者に向かって開く」(他者とのかかわり)について、さらには最終目標であるアガペーについて、ここでもう一度考えてみたいと思います。11月末に皆さんからいただいたお誕生日のメッセージカードの文およびイラスト、とても素敵でしたね。皆さんはクリスマスカードも誰かに書いてみましたか?私はお世話になっていたのにご無沙汰してしまっている方、お一人だけに感謝を込めて書いてみました。
そして、新年、お年賀状をくださった方々、ありがとうございました。私の周りでは今回、郵便代の大幅値上げに伴い、年賀状じまいをなさった方が多かったです。そんな中、皆さんは私宛にも年賀状を送ってくださいました。ご家族と充実した冬休みを送っていらっしゃる様子を伝えてくださった方、昨年一年を振り返り、今年の目標や抱負を教えてくださった方が多くいらっしゃいました。皆さんからの希望と思いやりに満ちたメッセージをいただいて晴れやかな気持ちになりました。改めて今年も皆さんと一緒に歩みを進めていきたいと、強く思いました。心より感謝申し上げます。
私自身は、年賀状じまいはしておらず、しばらくは個人的にも年賀状を書き続けてみようと思っています。なぜなら、私は筆不精であるため、せめて一年に1回は、ご無沙汰している方に少しでも感謝のメッセージや近況報告をしたいと考えているからです。メールやSNS等でメッセージを送る人が増えていて、それも年賀状じまいにつながっているようです。私も年賀状を書いてはいますが、相手によってはSNSなどでメッセージを送っています。皆さんはもっと上手に使い分けていらっしゃることと思います。カードや手紙ででも、メールやSNSででも、あたたかい思いやりのあるメッセージ、祝福の言葉を他者に贈ることは、自分も相手も心豊かにし、ウェルビーイングになり、つまりは、アガペーの実現になるのではないかと思います。
さて、このようなあたたかい思いやりのあるメッセージ、祝福の言葉を贈るという愛し方を紹介し、考えさせてくれる素敵な小説があります。小川糸著『ツバキ文具店』『キラキラ共和国』『椿ノ恋文』の3作があげられます。舞台は鎌倉です。鎌倉の銘菓と言えば鳩サブレ―。その関係か主人公の名前は鳩子です。ニックネームはポッポちゃん。主人公鳩子さんは、「先代」と呼んでいる尊敬するご祖母様から受け継いだツバキ文具店を営んでいます。文具店でもあるのですが、先代の時から手紙の代書を請け負っています。この手紙の代書には、様々な風変わりな依頼が舞い込みます。友人への絶縁状、借金のお断り、天国からの手紙、亡き夫からの詫び状、憧れの文豪からのラブレター、大切な人への遺言など。依頼者は、伝えたいけれどもうまく言葉にできない、そのまとまらない想いを胸にツバキ文具店に足を運びます。鳩子さんは、お茶を一緒に飲みながら丁寧に依頼者の言葉に耳を傾けます。依頼者が悩みぬいてツバキ文具店に足を運んだ理由、これまでの人生の歩み、相手に対する望みや想いを聴いて行きます。そして、筆跡を見せてもらいます。鳩子さんは、何日もかけて、想像力を働かせて依頼者になったつもりで文章を綴っていきます。その中で、依頼者の想いを誠実に伝えるためには、どんなペンがいいのか?ボールペンか筆ペンか万年筆か。どんな色合い形状の便箋と封筒にするのか?紙の色や質、香りはどうするか?さらには、依頼者の状況に合わせて利き手の右手で書くのか、利き手ではない左手で書くのかまで悩みながら決めていきます。そして、出来上がったところで、依頼者に確認してもらい、最後に依頼者とその目的、手紙を受け取る\\相手のことに思いを巡らしながら貼る切手を選び、心を込めて投函します。鳩子さんは、手紙を書き上げ、投函するまでの間を、依頼者と手紙を受け取る相手に思いを馳せ、その幸せを祈り続けて過ごすのです。これはまさにアガペーの実現と言えるでしょう。
また、鳩子さんは代書という仕事や文通を通して、多くの良き出会いに恵まれます。バーバラ婦人やパンティー、男爵、QPちゃんたちとの、心温まるかかわりが広がって行きます。また、すでに亡くなっている先代とのかかわりも見つめ直し、感謝の念をより深く抱いて行きます。誰かのことを真剣に思い行動することは、自分をより良く見つめ心豊かに生きることにつながっています。まさにウェルビーイングです。
私はこの小説を読むことで、15年ぐらい前を懐かしく思い起こしました。その頃の私は、この学校で連続して中等科 2 年生の担任をしていて、10月の校外学習でよく鎌倉を訪れていたからです。その頃中 2 だった多くの生徒たち(卒業生)の顔が浮かんできました。今は皆さん、それぞれが立派に社会に出て活躍していらっしゃることでしょう。あの時、一緒に毎日を過ごせていたことに感謝すると共に、今をよりよく生きていこうという気持ちに、この小説は私を導いてくれました。皆さんも鳩子さんのように、ぜひ、今出会っている多くの人に祝福のメッセージを贈り続けてください。そうすることで、きっと、今まで出会った方々にも感謝の念が湧いてきて幸せになります。心豊かにこの 3 学期、そして1年を過ごして参りましょう。
最後に高 3 の皆さん、卒業までの登校日数も一桁となり、これから自宅学習日と入試の日が続いていきます。つらくなったら学校に来てください。自分の今を他の人と分かち合ってウェルビーイングを実現しましょう。これまでの歩みを感謝して、進んで参りましょう。
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